先日風邪で休んでいるとき、フと思い出した。
数年前、ちょうど草木染めにどっぷりハマリ始めた頃だったと思う。帰国ついでに田舎へ顔見せに行った時、じぃちゃんがガサガサとどこからか引っ張り出してきた古き書物。
「松本浄念著 一子相傅 漢方秘法 研究と實験録」
*實験=実験 *一子相傅(一子相伝)=奥義・秘法を自分の子の中の一人だけに伝えること
カバーをめくると、著者の短歌ではじまる。
「道しばもこの世を救ふ たねなるぞ かりそめならで 心とどめよ」
雑草もこの世界を救う種じゃけ いいかげんにせんでしっかり覚えときゃ! みたいな。頭からこころにぐっときます。
そして続く「自序」。さらにぐっときた箇所を抜粋します。
「然るに一度西洋医風が日本に輸入せられて以来、西洋崇拝の思想は燎原(りょうげん)の火の如き勢をもつて全国に彌漫(びまん)し幾千年来貴重な体験をもつて築き上げられたところの、和漢薬草応用法は一朝にして忘れ去られようとしたのであつて、決して当を得た処置とは云えないのである。能く能く(よくよく)考察研究なしその是非を云為(うんい)すべきが至当であろう。」
*燎原の火=勢いが盛んで防ぎ止められないもののたとえ *彌漫=広がること *云為=言ったりしたりすること
さぞ、さぞ、悔しい事だったでしょう。ぐぐぐっときませんか?
... そう。ここ100年足らずで「幾千年来貴重な体験をもって築き上げられた」植物の薬用用途が、とうとう次世代に伝わらなくなってきた。戦後の西洋文化への移り変わりと高度経済成長の日本のまだ若い歴史をたどれば、誰にも非はなかったし、過去を嘆いた所で何も返ってきやしない。ううっ
ま、でもだったら今からでも取り戻していけばいいじゃんね。知ってると生きている上で相当有効活用できるしね。リアルに考えて今のご時世、各家庭それぞれが持っていなければならない知識というのではないと思う、けど、例えば、街の商店街に一軒「薬草や」さんなんてあったりして、経営主体は血縁じゃなきゃなんて野暮いわずさ、植物おたくの集まりが受け継いでいく感じだっていいわけじゃん、そんなんあったらおもしろいんじゃなかろうか。いや、今のご時世さらにリアルに言うならば、薬草オンラインショップが妥当かしらね。全国に街の薬草やネットワークとかオンラインコミュとかできちゃったりして。
ま、個人的には Face to Face のやり取りが一番 人間味を感じられていいと思いますケドね。オンラインショップを経営する当人がそんなん言っても説得力がないはないですが... 笑
ちなみに日本の薬事法など詳しい事は調べてないので、雑草を採取して売ったりナドの法的事情はよく分かりませんが、この書物を見る限り、ほとんどは自生する野草、つまり雑草。雑草を自己責任かつ個人で使う分なら、法だの決まりだの知ったこっちゃないと思います。雑草は強い。なんてよく言うよね。どこにでも生える雑草の生命力... 今更ながらその薬用効果うなずけます。
ちなみに、書物を見せた先の孫が「こっ...これは!!」「えーすごい!!」なんて我を忘れむさぼりついてるもんだから、じぃちゃん一言。
「良かったら、おめぇ持ってけや」
私迷いなくありがたく頂戴して参りました。 にしても、あの時じぃちゃんがこの書物を出して来たタイミングが今思い返しても自然すぎる。あれを年の功というのか、何かを感じたのか、とにかくじぃちゃんには感謝です。ありがとう、また会う日までどうかお元気で。
そんなこんなで、私の手もとにやってきたこの書物。今はイギリスだけどね、これからも私と一緒に生きていくのだ。
道しばも この世を救ふ たねなるぞ かりそめならで 心とどめよ (松本浄念)